進化するセミナー
ディスカッション形式で進めるdarwinで好評のセミナー/研修をdジャーナルでも疑似的に学べるように記事にしたものです。実際のディスカッションをベースに仮想の参加者間でディスカッションを繰り広げ、セミナーを疑似体験することで思考をブレイクスルーできるようになっています。
なお、登場する企業は実在する企業ですが、偽名を扱いケースも簡略化してあることご容赦下さい。
ケース『経営と営業の乖離』
「顧客満足を追求する」、「わが社はお客様のためにある」と顧客志向を掲げる企業は多く存在します。しかし、実際の営業担当者が顧客志向を徹底できているか調査したところ、徹底出来ていないと感じる人が多いことが分かりました。
つまり、経営意図と営業活動に乖離が発生しているということです。
なぜ経営意図と営業活動の乖離が発生するのか、乖離を発生させない解決策は存在するのか、をディスカッションを通じて考えていきましょう。
では、ディスカッションのベースとして次の企業を取り上げてみたいと思います。
ケースを読み田中さんに感情移入し考えてみて下さい。
ディスカッション
株式会社ヤッコシステム(以下、ヤッコシステム)で営業担当者として働く田中の境遇は容易に想像できるだろう。
なぜ営業現場は葛藤するのか?
まず初めに
なぜ営業担当者の田中は悩んでいるでしょうか?
会社は顧客満足を掲げているが、
営業の目標が売上目標となっているから。
つまり、売上と顧客満足がイコールにはなっていない、ということですね?
必ずしもイコールではないと思います。
売上が目標で目標達成のプレッシャーがかかると、
顧客満足よりも売るを優先してしまうこともあります。
私は、顧客を騙すような営業をしていることに
田中さんは悩んでいると思います。
98万円の商材Aを120万円から98万円に割引したと見せた点や、
敢えて競合A社の情報を流さなかった点です。
マネージャーは顧客を騙して契約をとったということですね?
これは情報を操作して顧客満足を偽造していると言えます。
顧客が後から事実を知ると、結果的に不満を覚えると思います。
白川さんの意見について、みなさんはどう思いますか?
仮に競合A社の情報を流して販売価格を正確に提示したとして、
それで顧客が競合A社に流れたら、
競合に顧客を渡したダメ営業だと思わないですか?
たしかに顧客が競合に流れるかもしれません。
社内ではダメ営業と思われる可能性もあります。
ただ、顧客が最適な選択をできたのであれば、
営業が失注しても顧客満足は高いと思います。
すると、
白川さんは顧客満足が高ければ営業が受注しようが失注しようがどちらでも良い、と?
う~ん・・・
発言が無いけど、大島さんはどう思いますか?
私は、これは営業の責任ではなく経営の責任のように感じます。
商材Aがそもそも競合A社に35%の勝率であることが問題で、
これは企業が商品開発の努力をすべきことだと考えます。
なるほど。では、
いくつか論点が出てきたので少しまとめてみましょう。
論点の整理
参加者である吉田さんと白川さんと大島さんの意見を整理すると、いくつか論点が見えてきました。そして、これらの論点が経営と営業の乖離に関わっているようにも思えます。
行動と心理
一つ目の論点は『行動と心理』です。
同じ営業という行動であっても、目標達成のプレッシャーの強弱によって営業担当者の心理は異なってくるというものです。プレッシャーが強いと本来あるべき顧客満足ではなく営業目標売上を優先しようとする心理が強く働いてしまう。
おそらく目標達成のプレッシャー以外にも、営業担当者の心理へ影響を与える要因はあるはずです。そして、それらがなぜ心理に影響を与えるのか、その時に営業担当者の葛藤について、もっと深堀りをしていきたい点です。
公平性と倫理観
二つ目の論点は『公平性と倫理観』です。
営業担当者と顧客では、情報の非対称性が生じています。これは当然のことであり、営業担当者は顧客によってどの情報を開示するのかを吟味するものです。
しかし、ここでポイントになることは顧客の購買決定要因(KBF)に絡んでくる情報をどのように開示するかどうかです。
このKBFに関わる情報開示においては、営業担当者の倫理観が特別働きコンフリクトを生じさせることが見えてきました。
この点についても、参加者がどのように判断し情報開示しているかディスカッションをしていきたい点です。
結果と評価
三つ目の論点は、『結果と評価』です。
営業担当者は葛藤しながら営業を行います。
営業担当者は、時には本当に顧客の役に立ちたいと想い営業し、時には自らの目標達成を優先し営業します。また、時には公正に情報を開示し、時には有利に働く情報のみを開示します。
結果、受注し、あるいは、失注する。そして、営業担当者は評価されます。
実績のみを評価する企業もあれば、実績とプロセスを評価する企業もあります。ただ、プロセスといえどもそれは途中の結果であり、一つの実績ともいえます。提案書を作成したか、上司と同行したか、決裁者との面談が実現したかなど。
しかしながら、ここには営業担当者の葛藤の中身は考慮されていません。つまり、次の2名のうちどちらの営業担当者の方が評価されるかは明白、ということです。
- 商品Aを初めに120万円と開示し、その後98万円に割引いたと見せて98万円で受注した営業担当者
- 商品Aの販売価格98万円を開示し、その後88万に割引いて受注した営業担当者
葛藤を評価しないことは当然と言えば当然ですが、経営と営業の乖離が垣間見えた気もします。
営業努力と企業努力
四つ目の論点は、『営業努力と企業努力』です。
これまでに上げた営業担当者の葛藤は、企業努力が足りないからではないのか、という観点です。
反論したくてこの記事に「違う!」と言ってしまった方もいるくらいでしょう。
そう、確かに営業担当者の売り物は商品というハード面だけではありません。ソフト面も存在します。コミュニケーションの取り方や商談の進め方、顧客本位な対応、日頃からの知識のインプットなど様々にあります。
しかし、例えば企業のマーケティングはどうでしょう。市場が求めるニーズを研究し商品に反映できているでしょうか。そのような商品が生まれる仕組みがしっかりと構築できているでしょうか。他には、企業の評価制度はどうでしょうか。営業が真に顧客満足のために営業できる環境を提供できているでしょうか。マネジメントはどうでしょうか。
ちなみにですが、このような企業経営に関わる論点は、エグゼクティブ向けのワークショップで中心的に取り上げています。
また、今回の進化するセミナーのような中間管理職や担当者に関わる論点は、マネージャー・プレイヤー向けのワークショップで、例えば営業努力の範囲内で何ができるか、とさらにディスカッションを深めていきます。
顧客の立場からディスカッション
ワークショップでは一度まとめた論点に対してさらにディスカッションを深めていきますが、この進化するセミナーでは次のケースに移っていこう。
次のケースは、顧客の立場から描かれたケースを扱います。顧客の立場からディスカッションすることで、経営と営業の乖離について考えていきましょう。
ということで、続きは『進化するセミナー/経営と営業の乖離【2/3】』をお楽しみに。
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