前回のdージャーナルでは、「エンプロイアビリティ」の概念をアメリカ流ではなく日本流の意義で捉え自社に最適化させることの重要性を記載しました。
ただ、それだけでは不十分であり、中小企業の能力開発のためのインフラ整備を指摘しました。
そこで、もう一度「エンプロイアビリティ」の概念に立ち返り、仕事の成果につながる従業員の能力が強化される「機会」に着目していきます。
人材が成長する機会を創出する
日本流「エンプロイアビリティ」の第4定義「企業が従業員の能力開発機会を提供する(能力開発の機会向上)」は、何も従業員を人材研修に受講させることに限っていません。
重要なことは機会を提供することなのです。
例えば、従業員に一日の振り返りを上司と行うことでも良いのです。
しかし、ただの振り返りではいけません。
明確な育成目標が必要です。
そのため、従業員に日報や業務報告を書かせて終わり、コメントを記載して終わり、気になる内容があれば少し話をして終わりではいけないのです。
能力向上につながる学びの場を与える必要があるのです。
従業員がそういった学びを得る機会や学びを得るための企業ができる工夫は、大いに存在します。
そこで、「従業員体験」という観点から考えてみましょう。
従業員体験(EX:Employee Experience)
従業員体験は、従業員がその企業に入社し退職するまでのフェーズの中で得らえる体験のことです。
その体験には、日々の業務や研修から得られる形ある体験から、心理的に職場や顧客から受ける無形な体験が含まれています。
この従業員体験は、サービス業で取り入れられているケースが多いです。
その背景として、以下のようなサービス・プロフィットチェーンに基づいた取り組みを行っているためです。
- 従業員満足度の向上
- 従業員の質向上
- サービスの価値向上
- 顧客満足度の向上
- 顧客ロイヤリティの向上
- 売上拡大・利益性向上→1へ
このサイクルの始点なる従業員満足度を戦略的に向上させるために、従業員体験ジャーニーマップを作成します。
従業員体験ジャーニーマップ
従業員ジャーニーマップでは、入社から退職までの各フェーズの従業員体験に対して、従業員のモチベーションや心情の変化を辿ったものです。(顧客体験ジャーニーマップの従業員版です)
従業員成長ジャーニーマップ
ここで、話をエンプロイアビリティに戻していきます。
従業員の「雇用される能力」を向上させるために、企業は人材の成長機会を創出することが重要だと話しました。
どこにその成長機会が存在するかを従業員成長ジャーニーマップで可視化することができます。
従業員成長ジャーニーマップは、顧客体験ジャーニーマップを従業員の成長に焦点を当てたものです。
顧客体験フェーズを業務時間やあるプロジェクトに、体験の範囲を従業員の能力開発・育成に限定したものです。
上図のように、成長機会を可視化したものが従業員成長ジャーニーマップです。
次のような流れで作成します。
- 成長フェーズを具体的な業務やプロジェクトに限定する
- 従業員の期待に能力向上など成果以外の期待も考慮する
- 現在のアクションと成長機会をまずは可視化する
- 成長促進のためのアクションで期待とのGAPを埋め成長機会を広げる
- 成長促進のためのアクションによる成長機会を可視化する
図のように、業務やプロジェクトには成長機会が大いに存在することが一目でわかります。
また、実際に専門家からのアドバイスを受けながら業務を進めていることは少なく、自分で調べた情報や上司の経験などから得られる成長に依存している企業、特に中小企業はとても多いです。
そして、成長機会を可視化することはあくまでも準備であり、最も重要なことは成長促進のためにどのようなアクションをとるか、ということです。
人材が成長するアクションを考える
成長機会が創出されれば、残るはアクション、そして実行です。
最後にどのようなアクションが効果的なのか紹介していきます。
体系的な成長を促す
体系的な知識をインプットさせ成長を促すことは型を作る上でとても重要です。
セオリーや基本を知る、ということです。
先輩や上司からの経験には効率面でもメリットがありますが、デメリットとして組織に依存することによるリスクがあります。
典型的なものとして、50代60代で転職を試みようとしたものの、これまで属してた企業にその能力や経験が限定されるがために、他社への転職が困難となるケースがあります。
いわゆる「ホールド・アップ問題」です。(今後のd-ジャーナルでこの高年齢労働者問題も取り上げたいところです。)
ホールド・アップ問題は人材にとってまさに不幸です。
「雇われる能力」ではなく「雇われない=他社では通用しない能力」を伸ばしてきたということになるのです。
だからこそ、体系的な成長を促すことはとても重要です。
その成長があれば、組織依存的な業務の進め方やアドバイスに対しても疑問を抱き軌道修正することができ、組織力向上にもつながります。
そして、この体系的な成長を得るためには次のようなアクションが良いと言われています。
- 大学等の専門性の高い機関で使われている/出版されている書籍を読む
- ビジネススクールに通う
- 専門的かつ体系的な知識を持つ外部人材からアドバイスを受ける/共に業務を進める
多彩な事例から経験的な成長を促す
先ほど先輩や上司の経験に依存する支援にはリスクがあると説明しました。
それはある組織依存的な経験である場合、リスクが高いと言えます。
ここで説明する経験的な成長とは、様々な組織/企業から得られた知見やノウハウに基づく成長です。
知見・ノウハウが一社に依存するか、複数の企業に依存するかで、得らえるものは違います。
自社から得らえる知見・ノウハウは集約的な経験則となりますが、複数の企業の事例から得られる知見・ノウハウは集約的な経験則が企業の数だけ存在します。
この豊富な経験から促される成長は従業員の成長を加速させます。
業務やプロジェクトを進める上で、状況ごとに打つべき対策の選択肢が大きく広げることができます。
- 多彩な事例や経験を持つ外部人材からアドバイスを受ける/共に業務を進める
- 事例紹介となる企業セミナーに参加する
- 事例紹介が中心の書籍を読む
上記のような代表的なアクションで成長を促すことができます。
創造的な成長を促す
これまでの成長は、ある意味手堅い成長と言えます。
過去にその効果を実証されたものを吸収し、従業員の成長を促すからです。
ただ、それでは無から有を生み出すような創造的な成長を促すことはその従業員の素質に依存します。
そこで、最後は従業員の創造的な成長を促すアクションです。
創造的な思考や革新的な思考は必ずしも個人の資質に依存するものでなく、組織的に作り出すことも出来ます。
それを実現している企業として「IDEO(アイディオ)」があります。
是非、興味がありましたら、IDEOの書籍等をお読みください。とても面白いです。
ただ、どの企業でも容易に真似できるものではありません。
そこで、次のようなアクションをお薦めします。
- 他部署との密な連携で業務・プロジェクトを進める
- 他部署との連携においては実行策ではなく本質を考えることに重きを置く
- アイディアマンとなるような人材/外部人材にアドバイスを受ける/共に業務を進める
以上のように、従業員の成長機会を創出することができれば、従業員のエンプロイアビリティにつながります。
そして、業務や組織に依存する成長ではなく、広く活かすことのできる能力を開発することは、その従業員のエンプロイアビリティに加え企業の成長をも意味します。
また、成長促進のためのアクションの具体策に外部人材の活用が出てきました。
今、副業市場が急成長し、スキルシェアリングという外部人材をアドバイザーとして短期契約するサービスも出てきています。
スキルシェアリングは、戦略や企画など事業に関するアドバイスを受けることに広く活用されていますが、このような人材との接触は従業員の成長を促します。
日本流、そして、今の時代に適したエンプロイアビリティで、人材成長を促す企業が増えることを願っています。
変化に挑むパートナーdarwin