建設業DXの課題と期待

建設業DXの課題と期待

建設業DXの課題と期待

建設業は今、大きな変革期に入っています。

この変革の波にうまく乗り大きく成長を遂げたいと、経営者なら誰しもが考えます。

大手企業であれば資産を投じ波の変動を見極めながら乗り越えていくことができますが、建設業の施工を担う大半の企業は中小・小規模事業者です。

当然そういった企業が波に乗ることは容易でなく、また、大企業の航海船に同乗することさえ望めないことが現実としてあります。

この深刻な現実の背景には、建設業自体が抱える大きな問題が存在していると考えてます。

それが、「業界構造」「規模の格差」「アンフェアな価値観」の問題です。

今回のd-ジャーナルでは、これら問題のうち「業界構造」が引き起こす問題を紹介し、その視点から建設業DXの現状と課題を、そして最後に期待を述べたいと思います。

私は、darwinの代表である傍らで電気設備工事業の中小企業の経営企画室長も務めています。
その電気工事会社ではこの問題を打破し大きく成長すべく戦略的に取り組んでいます。

その中で、この業界問題をもっと多くの方に知ってもらい、業界の垣根を越えて協力し合えることがあれば力を合わせていきたい、そういった想いもこのd-ジャーナルに込めています。

特に、建設業や電気工事業向けのサービスを展開あるいは新規事業として考えている方々、そして今まさに苦しんでいる事業者の方々にとって有意義な情報提供になれば幸いです。

また、「規模の格差」と「アンフェアな価値観」についても一部記載したいと考えていますが、「アンフェアな価値観」は建設業に限らない話でもあります。

アンフェアな価値観については、別のd-ジャーナルとして投稿したいところです。

重層下請構造と問題

それでは、建設業の業界構造についてです。

建設業は、何層にも重ねられた下請構造となっています。
最も顕著にみられるものとして商業施設など大規模建築物の工事現場があります。

第一に発注者となる顧客がいて、その発注を受ける元請がいます。
そのほとんどが(スーパー)ゼネコンであり、元請けとして位置づけられます。
次に、各種設備工事についてはサブコンが1次請けとなり、工事を請け負います。
(土木・鉄筋・大工工事等は施工管理会社がゼネコンから1次請けとして請け負うことが主です。)
そして、実際の施工は施工会社へ委託され、施工会社が2次請けとして実際に職人を抱え施工を進めていきます。
現場の施工設計・計画・管理監督等は元請けのゼネコンと2次請けサブコンが中心となります。

また、人手の問題からサブコンは数社の施工会社を2次請けとして施工を依頼することもあります。
そして同様に、2次請けの施工会社は、施工協力を得るため3次請けとなる協力業者へ、その協力業者は4次請けとなる協力業者へ、と重層下請構造は連なっていきます。
戸建てなど建築物が小規模であれば、この請負構造はもっと薄く、また機能の隔たりがあいまいにもなってきます。

この多層に積み重なった下請構造が問題の根として様々な問題に絡みながら存在しています。

重層化の背景

そもそも、なぜ重層構造が生まれてしまうのでしょうか。

その背景には、中小・小規模事業者の生きるための知恵と規模の格差があると言えます。

知恵とは、建設業の景気の波や工程の波に対するリスクヘッジです。

より多くの現場に対応して売り上げを上げるためには、そして、一つの現場で竣工を迎えるためには、それだけの職人の手数が必要となります。

しかしながら、景気が冷え込み建築現場がなければ、抱えた職人の数だけ人件費は収益を圧迫していきます。
また、幸い現場を確保できたとしても工程によって必要となる職人の数は変動します。
必要数以上の職人を現場へ投入しても、余剰人員となるだけでコスト過多となるだけになります。

そして、建設予算は大変にシビアです。

だからこそ、現場赤字を避けるため、そして企業赤字を避けるため、施工会社は重層化された今の状態に陥っているのです。

他にも、職人と管理監督者では建設コストの捉え方が違っていることや、業務と報酬に関するアンフェアな価値観なども要因として考えられます。

問題点

重層下請構造に飲み込まれている施工会社には、様々な問題が生じています。

必然的に下層へ行けば行くほど事業者の規模は小さくなります。
従業員数が数十名~十数名~5名前後~1名、最終的には一人親方です。

当然ながら得られる利益も小さくなります。
しかし、小さな利益では生涯年収も限られてしまい、それに納得できるわけがありません。
その状況を打破するため、一人親方として独立した職人は、他の一人親方を引き連れ一人親方群のような集団となり、少しでも得られる利益を増やそうと努力します。
中には、株式会社として社会的信頼を獲得し組織的に運営し、より大きな利益を得る努力をします。

しかしながら、それらの努力には限度があり下請構造のしがらみに絡まっていることに変わりはなく獲得できる利益上限は限られたままなのです。

このような状況では、当然業界としての魅力度は下がってしまいます。
魅力度が低くては、若手離れが発生し施工の担い手である職人の年齢は年々上昇していきます。
結果、人件費の上昇と限られた利益の中での報酬、この2つがトレードオフとなっていくのです。

また、マクロな視点でこの重層下請構造を見ると、企業のパワーバランスが一向に改善されないことも問題です。

ゼネコン・サブコンと施工会社の企業数は圧倒的に施工会社の方が多いです。
つまり、それだけ替えが効くことになります。
そのため、価格交渉において圧倒的に施工会社の立場は弱くなります。
建設業は情や絆で動くところもありますが、それらを取り除いて意思決定しなければならない場面もあります。
ただ、この情や絆に頼りすぎている施工会社は、気づかぬうちに地盤が緩くなっていて足元がぐらつき、いつ傾いてもおかしくない、という状況に陥いっています。

新型コロナウイルスの厳しい市場ダメージで倒産に追いやられた建設業が多いことは、これらの問題を理解していればごく当然の結果といえるのです。

建設業DXの現状

建設業が抱える、そして設備工事業が直面している問題を理解したところで、建設業DXの現状を見ていきましょう。

そこに、何かギャップというべきか、すれ違いがあることに気付くのは、おそらく私だけではないと思います。

BIM/CIMを活用した包括的建築プラットフォームの構築

DX化として最も考えられているものとして、包括的建築プラットフォームの構築があります。

このプラットフォームのポイントは大きく3つあります。
「3D建設データの活用」「建設機能横断的なデータ連携」「建設状況のリアルタイムな把握と管理」です。

現在三次元CADなど3Dデータは活用されているのですが、建築から設備、特に設備から施工といった機能間では2Dデータで情報連携を行っています。
また、設計から材料発注、仕入、原価といった機能間ではデータが連携されておらず、それぞれの管理も設計データとは切り離されています。

これらを連携させよう、という考えがこの包括的建築プラットフォームとなります。
これが実現すれば、マネジメントの生産性がアップすることは間違いありません。
また、リアルタイムに包括的にデータを把握できるため、顧客とのコミュニケーションの質は向上し提案力の向上、顧客満足度の向上、工事採算の精度向上など様々な効果が期待されています。

建築物のIoT化によるスマートシティ構想への参画

建設業だけでなく他業種と連携し都市規模でDX化を図るものとしてスマートシティ構想があります。

代表的なものとして竹芝地区開発計画があります。
データ化できるあらゆる情報をビッグデータとして集約し、AIやロボットを活用し都市機能を飛躍的に向上させる計画です。
この竹芝地区開発計画の中には、建築物そのもの、あるいはその設備の至る部分をIoT化したスマートビルの建築があります。
利用者の動きや室温、CO2濃度など多様なデータを集約し、利用者の体験価値を高める目的などがあります。
このような都市開発計画の構想を実現するためサブコンやゼネコンが企画・設計段階から参画しています。

i-Constructionの動き

DX化というよりもIT/AI/ロボット技術等の活用に意味合いが強いですが、i-Constructionの動きがあります。

i-Constructionは、国土交通省が推進する施策の1つであり、ICT等を活用し建設現場の生産性向上を図る取り組みです。
その範囲は、調査・測量から設計・施工・維持管理までのあらゆるプロセスを対象としています。
現段階では、土木分野においてその取り組みが推進されています。

例としては、ICT建機といった建設重機のIoT化や、建設重機の遠隔操作化、ドローンや3D技術を応用した測量などがあります。
この例では、実際に測量や作業、管理に関わる時間の短縮といった効果がみられています。

現状の整理

建設業DXの3つの例を紹介しました。
いかがでしょうか。
それぞれが建設業のプレイヤーに対してどのような恩恵をもたらすのかを整理してみましょう。

包括的建設プラットフォームの構築・営業力の強化(ゼネコン)
・施工管理業務の生産性向上(ゼネコン・サブコン)
スマートシティ構想への参画・営業力の強化(ゼネコン)
i-Construction・工事の生産性向上(土木におけるゼネコン・工事会社)

建設業の大部分のプレイヤーである工事会社が恩恵の得られる可能性があるものは、i-Constructionです。

その他の例は、どれもゼネコンやサブコンの業務に大きな変革をもたらすものとなります。

しかしながら、このi-Constructionにも壁は存在します。
現時点では土木分野であること、管理の人員は削減できても、実作業にかかわる人員削減には投資コストと時間や技術を要することです。

また、なぜ土木が先行しているかというと、AIやロボットが現場を認識しやすいこと、作業する上での物理的障害が少ないことが挙げられます。
建築物の施工の場合、現場は日進月歩で進み、床や柱、区画、壁等が続々と建てられていきます。
それにつれ作業スペースや作業導線も制限され、かつ、建築・設備(電気・空調・給排水等)の様々な職種が連携しながら作業を進めていきます。

決してどちらかに優劣がある、というわけではありませんが、AIやロボットの導入しやすさで考えると、土木に軍配があがる、というわけです。

建設業DXの課題

それでは、これら建設業DXの課題についてです。

DX化が進むことで、管理業務における人手不足は確実に解消されるでしょう。

しかし、職人といった施工に関わる担い手不足は解消されないでしょう。
スマートグラスや3DCADの投影技術が向上することで、一部の作業効率は上がるでしょうが、その効果は微々たるものとなるでしょう。

顧客や元請の理解が浸透し納期や工程が改善されない限り、現場における必要人工の波は変わらずあるでしょうし、景気の波は当然に存在します。

結局は重層下請構造を解体するような方向へ建設DXは進んでいないということです。

対して、管理業務が主となるサブコンとゼネコンは、DX化やIT化の浸透により人員の削減、管理制度向上により利益獲得基盤は改善していくでしょう。

つまり、建設業の業界構造がもたらす根本問題は解決されないことが問題であり、その解決が課題として残り続けることになります。

課題解決のための期待

このように、業界として注目を浴びている取り組みでは根本の解決にはつながらず、やはり建設業の問題は根が深いという結論になるわけです。

この根本的な問題を解決するためには、建設機能毎の分離発注や管理体制、建設コストに対する概念の刷新など、構造に対して抜本的な変革を起こさなければ解決されないと考えています。

DXは1つの時流ではありますが、どこか顧客サービスや内部業務に対して応用される傾向が強いように感じています。
かつてのトヨタやDELLの生産モデルの変革のように、建設業における施工体制を変革し持続可能な業界モデルの再構築のためのテクノロジー応用に期待しています。

とはいえ、重層下請構造に絡まる施工会社がリソースのある大手企業の他力にただただ懇願するだけで良いわけがありません。

施工会社も出来る範囲で、少しでも根本問題への対策を講じなければならないとも感じています。

根本的な解決に至らなくとも、今の構造下でも取り組めることはあります。

組織規模拡大によるパワーバランスの改善、景気変動リスクをヘッジするエコシステムの構築、経営力の向上など、取り組めることはあります。

業界全体が真の意味で協力関係を構築し、建設業の問題が少しでも改善され、業界の持続可能性と魅力度が高まる方向へ変化することを強く願っています。

~変化に挑むパートナーdarwin~

青木 慎介

darwin/代表、株式会社三光電氣/経営企画室/室長。 鳥取大学医学部卒業、鳥取大学大学院医学修士課程修了、名古屋商科大学大学院経営学修士課程修了。 中小企業向けのコンサルティング会社を経て、2019年darwin創業。経営者の「変化したい」の想いに応えるため、アドバイザー/実行支援者として変化に直接的に関与。歴史ある中小企業や老舗旅館、建設会社などの支援を多く手掛ける中で、その企業の背丈にあった適切な変化を促し持続可能性と成長力を高めるノウハウと実績あり。

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